本記事では、マグネット効果と言われている相場の基本的な特徴と、その効果が表れやすいパターン、そしてその効果を引き起こす要因として挙げられる大衆心理に対する考察をまとめています。
テクニカル分析の中でもとりわけマグネット効果という考えは、あくまで仮説の域を出ない理屈のため、その点ご承知おきください。
アル・ブルックス氏本人による分析、トレード手法を学びたい方は、書籍をご確認ください。
マグネット効果の概要
ブルックス本(プライスアクショントレード入門)ではマグネット効果に関する説明が1章分ありますが(分量は少なめ)、冒頭の文章を読む限り、ブルックスさんはマグネット効果に対して「それほど利用できるものではない」と感じているように見受けられます:
ちなみに、この傾向はトレードの根拠として使えるほど信頼できるものではない。
もし利益を上げる方法のみ知りたければ、本章にはあまり時間をかけずに(以下略)アル・ブルックス著 井田京子 訳, プライスアクショントレード入門 第7章「マグネット効果」冒頭より p.253
逆に、ボルマン本(FX5分足スキャルピング)では、積極的にマグネット効果をトレード実施の判断材料として加えており、第9章の「連続した日中チャート」ではそこかしこに「magnet」という文字列を確認することができます。
マグネット効果は、ある程度の期間ポジションを所有するデイトレードやスイングトレードにおいては、その特徴を知っておけば有益になると考えます(ポジションの一部を引っ張る根拠として)。
スキャルピングの名が入っているボルマン本ですが、その実デイトレード寄りの手法のため、彼自身マグネット効果による影響を大きく感じているのかもしれません。 ※なお、原題には「スキャルピング」という単語は入っていない。訳者や出版社の意図的な何かが働いたと思われる。
マグネット効果の特徴
※マグネット効果(イメージ)
マグネット効果の一番の特徴は、ある対象となるレートまで磁石(マグネット)に引き寄せられるかのように上昇(下落)することです。
具体的には以下のような特徴を持ちます。
緩やかながら着実に推移する強いトレンドを持つ(短時間足)
マグネット効果は、特に短い時間足において、プルバックらしいプルバックを発生させずに緩やかにターゲットまで引き寄せる特徴があります。
そのため、プルバックを待っているといつまで経っても仕掛けられず、レートの推移を見届けることになります。
このような相場が起こる要因として一番に考えられる理由は、ダブルの圧力の発生です。
そのダブルの圧力が弱まるタイミングが、マグネット効果を引き起こしているレートに到達したタイミングとなります。
目標値に到達し、一度オーバーシュートしてから反転する
目標レート近辺まで到達した相場は、一旦そのレートを飛び越えてから反発を起こすことがあります。
上図は、何らかの理由でマグネット効果を発生させたレートに到達した直後の挙動の例を示しています。
左側は、目標値の少し上に逆指値を入れていたトレーダーの損切りと、その損切りを誘発させようと狙ったファンドの買い注文の殺到が、一時的な上昇を生み出したと考えられます。
そのあとの下落は、ブル派の利確とベア派の仕掛けが重なったことによるものと考えるのが妥当です。
一方、右側はマグネット効果の目標レート近辺で到達前にベア派が反発し、到達しなかった例です。
その時のブル派とベア派の強弱関係ではこのような結果も起こりうると考えられます(これらの判断は、結局ローソク足が示すプライスアクションに委ねるのがよさそう)。
ブレイクアウトが失敗しやすい
マグネット効果において到達したレート近辺では、ブレイクアウトのようなそのレートから離れようとするプライスアクションが失敗しやすい傾向にあります。
マーケットに参加しているものの多くがそのレートであることにある程度満足して相場に参加してないか、逆に多くのトレーダーが参加してブル派・ベア派が入り乱れるように仕掛けあっていることが一因です。
ブレイクアウトが成功すると、また次の目標値に向かってまた推進していきます。
これに関してはマグネット効果で語るべき範疇ではなく、単にトレンドが継続していることを示しているだけと考えられます。
将来的なレートの到達値を予見する参考値になる(長期時間足)
ブルックスさんがもっとも懐疑的に思いながらも説明しているのはこの部分です。
長期的な予測において、将来到達するであろうレートとその日時が、マグネット効果の名の元にある程度立てられるという特徴があります。
その具体例に関しては後述します。
マグネット効果を引き起こすパターン例
キリの良いレート(トリプルゼロ、50レベル)
マグネット効果を引き起こすメジャーなパターンとして挙げられるのが、キリの良いレートです。
トリプルゼロ(例:114.000)や50レベル(例:114.500)などが該当します。
なお、キリが良いとはいえ、88.888などはあまりマグネット効果は起こらないと思われます(興味深いレートではある)。
マグネット効果の有無はともかく、トリプルゼロが意識されていることが見受けられる例(AUDJPY, 1時間足)
過去に幾度となく反発やビルドアップが生じている地点
反発やビルドアップが幾度となく起こっていることが確認できるレートでは、マグネット効果を発揮することがあります。
そこを目標値とするトレーダー(ブル派・ベア派両方)が多ければ多いほど、その傾向が顕著に現れます。
波動の終点となるレート
N波動(ABC調整、AB=CD)やE波動といった、メジャーな波動の終点がマグネット効果を生み出すことがあります。
N波動
N波動は、推進(AからB)→調整(BからC)→推進(CからD)の流れにおいて、AからBまでの上昇幅とCからDまでの上昇幅がだいたい一致している波動です。
そのレートの推移が、アルファベットのNと似ていることからN波動と呼ばれています。
最後のDのレートが、Cの安値切り上げ以降にターゲットとして意識されるようになると、マグネット効果を引き起こします。
意味合いとしては一緒なのでどちらでもいいと思います。
E波動
E波動は、一度発生したスイングの上昇幅(A→B)が、トレーディングレンジの発生後などに再び生じたときに呼ばれる波動です。
B地点をどう設定するかによって、目標値(C)が多少変動します。
上図ではレジスタンスラインにBを設定していますが、トレーディングレンジの中間値に設定する考え方もあります。その場合、Cはもう少し下になります。
フィボナッチ・リトレースメント(通称:Fibo)
一定期間の上昇幅(下落幅)に対する押し(戻し)の割合が、フィボナッチ比率までプルバックするという信仰めいたテクニカル分析手法があります。
これもマグネット効果とひとつとして考えることができます。
相場で頻繁に使われるフィボナッチ・リトレースメントの値(フィボナッチ比率)は38.2%や61.8%、他23.6%や76.4%(78.6%派もいる)などです。
ちなみにブルックスさんは「38.2だとか61.8とか……そんなの約40%と約60%だろ」という旨を本の各所で言及しているので、本を読んだ方ならなんとなく目にしたことがあるかと思います。
結局のところ、プルバックの割合はフィボナッチ比率に収束するのか、だいたい40%とか60%までプルバックするのをフィボナッチ比率にこじつけているのか……については永久に結論がつかないと思います。
他
これ以外で思いつくマグネット効果の典型例として政府介入が挙げられます。
特に複数国で協調介入がなされている中で目標値が宣言されているような場合、そのレートまで政府、ファンド、トレーダーが皆一斉に同方向を向いて仕掛けることになるため、最強のトレンドが発生します。
その結果、目標値に向かってある種のマグネット効果が引き起こされます。
マグネット効果を引き起こすときの大衆心理のイメージ
一方的なレートの推移が続いているときは、高い確率でダブルの圧力が発生していることは容易に考えつきます。
マグネット効果は、そのダブルの圧力がいつまで続くかについて考察するための優秀な判断材料となるかもしれません。
あくまで仮説の域を出ませんが、マグネット効果が起こっている(起こった)時のブル派とベア派は、どのような思惑でマーケットに参加しているかについて考察しました。
マーケット参加者が概ね一致したターゲット値を持っている
ブル派もベア派も、現在推移している方向性に対して概ね納得しており、だいたいどのあたりまで値が動くかについてもあらかた同意見を持っているような場合です。
この場合、「ここまでは動きそう」というレートまでは、一方的に動き続ける可能性が高くなると考えられます。
イメージ
ブル派
積極的なベア派の大半はこのとき静観しているか損切り(買い戻し)を強いられているかのどちらかです。
その結果、相場はブル派・ベア派の思惑どおり1.15000まで大きなプルバックもないまま到達する可能性が高くなると考えます。
周辺に目星のつきそうなターゲットがない(少ない)
長くレンジ相場が続いたか、指標発表等の急騰(急落)などによって、大半の相場参加者が目星をつけやすいターゲットが少ない場合、トリプルゼロや直近高値、安値などに注目が行きやすくなります。
結果的にトレンドが生じたときに皆が同じレートを意識する結果、マグネット効果が引き起こされると考えられます。
イメージ
ベア派
売るベア派と見送るブル派(一部損切りを行うブル派)によって下落が継続し、下落の目標値として直近安値を互いが意識する結果、直近安値を終点とするマグネット効果が現れます(下図)。
まとめ
結局のところマグネット効果をトレードに活かすには、マグネット効果がもたらされる前の「際の部分(=動き出す地点)」から仕掛けたのち、ポジションをスイングすることが重要だと考えます。
そして、マグネット効果に基づいてポジションの一部を引っ張れば、思いもよらないリワードに恵まれる……かもしれませんが、利確の根拠もある程度プライスアクションに基づいたもので行いたいものです。
マグネット効果が生じる原因がトレーダー要因であることを本記事にて示したつもりですが、あくまで結果論の域を出ておらず、もう少し明確な事前の根拠が欲しい……というのが個人的な見解です。
編集後記
マグネット効果は早く記事化できそうと思い優先的に書くことにしましたが、結果的に実体の見えない・根拠の薄いことについて記述することは難航を極め、想定の倍以上の時間をかけても未完成という状態に辟易しました^^;
そもそもマグネット効果に対する需要なんてそれほどないと思うのに時間をかけるのはもったいないので、一部の図の作成は途中で切り上げています、ご了承ください(サイト全体の進捗が進んだら加えるかもしれない)。
関連記事
マグネット効果と関連が深いダブルの圧力に関する記事です:
コメント
突然のコメント失礼いたします。
レッグについての解説をしていただきたいのですが、可能でしょうか。
読んでいてどうしてもレッグというものが明確に理解できません。
ご検討宜しくお願い致します。
かみなさん
こんにちは~
「レッグ」については、私も最初意味合いを勘違いしたことがあるので、お気持ちが分かります。
一言で書くと、陽線が数本続いていれば、(明確に反転したと分かるような陰線が出るまで)
そのまとまりを「1本のレッグ」というようなニュアンスで使われています。
陽線が3本続いていてその後陰線が形成された場合、1本目の陽線の安値から3本目の陽線の高値までが1本のレッグ、という「イメージ」です。
(私はそう思ってますが、ブルックス氏は「違う」というかもしれません……^^;)
そもそも著者(アル・ブルックス)自身が、
「レッグという言葉はおおまかで(中略)どの言葉を使うかはそのときどきで判断してほしい」(プライスアクショントレード入門、p.135)と
書籍で記しているので、その定義自体は明確ではないという印象です。^^;
当記事に図で書いてある「N波動」で考えれば一番分かりやすいかと思います。
N波動は、2本の上昇レッグ(ABとCD)で成り立っています。
それぞれのレッグの中には十字足や陰線も混じっているかもしれませんが、
ざっとチャートを見たときに「継続的に上昇してるな~」と見える複数本のローソク足のまとまりを、ブルックス本では「レッグ」と呼んでいます。
※N波動レベルの規模だと、「レッグ」というよりは「スイング」かもしれませんが……
本をお持ちでしたら、プライスアクショントレード入門p.135にある図3.1中に描かれている(大雑把な)直線がレッグということになります。
[…] 参考 相場(FX)におけるマグネット効果と、それを引き起こす大衆心理に… […]
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