もし、トレードをする目的が「資産を増やすこと」であるなら、トレードに際して感情は一切起こらない(起こさない)ことが理想です。
トレーダーによっては「感情がないとトレードできない」、「トレードに感情が生じるのは仕方のないこと」だという意見もあるかと思います。
実際「私は勝っています」と自称するトレーダーが、セミナーなどで「感情も時には必要」というような話をされていたということを聞いたことがあり、どっちが正しいのか私は判断できかねていました。
しかし勉強を重ねた結果、(私は)トレードの結果や過程で感情が起こるのであれば勝ち続けるための精神状況としては理想的ではないという結論に至りました。
この記事では、感情がトレードに必要ない理由について、3つの具体的な例をもとに説明します。
感情は適切な判断を鈍らせ、破滅的行動を無自覚に執行する
神風特別攻撃隊が戦地に向かう場面。
人は「自分が行った判断は正しかった」ということを、例え正しくなかったと潜在的に理解していてもなんとか正当化しようとする傾向があります。それの最たる例が、第二次世界大戦における日本政府(当時)のふるまいだと思います(※真珠湾攻撃前の時点で圧倒的不利だったのにも関わらず戦争を仕掛けた点など)。
「成功者バイアス」という、「自分が経験して正しいと確信したことは(たとえ統計的に正しくないとしても)他者にとっても正しいことだと判断してしまう」という意味の言葉があることからも、「自分が行った判断は正しい」と考え、信じることは、人間として正常(典型)な感覚といえます。
トレードで例えると、仕掛けて含み損が膨らんでいる状態でも「自分の仕掛けは正しい(だからポジションは切らない)」と錯覚してしまうような状態です。
間違っているにも関わらず正しいと判断してしまう脳の詳細なメカニズムはここでは割愛したいと思いますが、概ね脳による保守(自己防衛)的な本能がそうさせると考えて差し支えありません(キーワードは「スコトーマ」や「RAS」)。
この本能的な(感情に依存した)行為に対する、トレードでの対策が損切り(逆指値の指定)であり、トレード手法の確立です。
人間は自分の行為をなんとか正当化しようとする生き物
トレードにおいて損失が膨らんでいくにも関わらず損切りせず、ポジションを引っ張り続ける行為も、上記のような思考が原因です。
この状況に陥ると、ありとあらゆる情報から自分にとって有利な情報を探し求め(普段見ないような時間足チャートを見たり指標結果を見たり…)、「この後建値に戻ると思う」という根拠を無理やり立てて自分自身を納得させようとします。
目の前に「この後も損失が膨らんでいく」ことを十分に示すデータ(上の画像の例だと、下降トレンドが形成されている)があるのにも関わらずです。
この一連の行為は「自分の判断(あるレートで約定したこと)は正しかった」ことをなんとか立証しようとする感情がトリガーになっています。
この行為が最終的にどのような結末を迎えるかは想像に難くありません。
人はトレードをすることによって、結果的に無自覚に自分自身を破滅させようと行動しているとも言えます。
感情に依存せず、トレードルールだけを頼りにトレードを行っていれば、含み損が膨らむ前に損切り出来たはずです。
人間は負の感情を避けようとするとするあまり、自身の成長をも妨げる
人間は、過去の失敗はできるだけ忘れたり遠ざかりたいと思うものです。
わざわざ自分の失敗経験を大いに語ったり、思い出したりすることにメリットがないからです(語ることでギャラがもらえるなら話は別だが…その際たる例がしくじり先生)。
失敗は「過ち」か?「過程」か?
損切りは言ってしまえば失敗に属します。できれば失敗せずに成功だけし続けるのが理想ですが、トレードの場合成功を追えば必ず失敗は付いてきます(勝率100%の手法がないため)。
ここで問題なのは、損切り=失敗=過ちと定義したときに、人間の性格上「(過去の失敗を)振り返りたくない」と考えることです。
これはトレードスキルの成長に関しては大きな損失となります。というのも、スキル・手法を向上・改善するための一番妥当な方法は「なぜ失敗したのか?」を追求することだと考えられるからです。
もし、損切り=失敗=過ちと考えてしまうと、失敗の追求が出来づらくなりますし、結果を良くするためにやるはずの行為がただただ苦痛になってしまいます。
損切りは必要経費という有名な格言がありますが、これは損切り=成功過程と解釈できます。
ならば本来は苦痛(怒り、悲しみ、裏切られたと思うなど)を感じるのはおかしいことです。なのにそう思えない…その理由はトレードに感情を持って臨んでいるからです。
トレードスキルは「失敗の追求」が最も成長を促進する?
勝負哲学に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負け無し」という言葉がありますが、FXトレードには「負けに不思議の負けも(わりと)ある」と考えます。
例えば、高勝率が検証において実証されているパターンで仕掛けたにも関わらず、偶然失敗に終わった(さきに逆指値に達した)ような場合です。
そのような場合は「まあこんなこともあるよね」で済ませることができるはずなのですが、本当にそう済ませられるかどうかはトレードを振り返ったかどうかにかかってきます。
トレード内容を振り返らず、「損切りになった」という結果だけを受け止めた場合、単に「不運でした」で片付けられる内容であるにも関わらず、相場を恨んだり自信を貶めたりするような気分に至ってしまいがちになります(もし「そんなことは思わない」と思われた方は、いい意味で特殊な性格を持っているため、このカテゴリを読む必要はないかもしれません)。
この「トレードを振り返る」という行為はどれだけスキルが向上したとしても必須の作業です。「さっきの損切りは偶然かそうでないのか、そうでないとしたら何がいけなかったか」が未来のトレード結果を向上する要因になり得ます。
勝ちトレードに関しても同様ですが(「不思議の勝ち」に対して反省する必要がある)、おそらく勝ちトレードは振り返る必要がなくても振り返ると思うのでここでは割愛します。
余談:トレードの何をチェックするのか?
相場心理とは少し離れますが、「じゃあ何を振り返るのか?」となると、概ね以下の2点だと考えます:
- そのエントリーは適切だったか?
- その損切り(イグジット)は適切だったか?
自身が確立している手法通りにエントリーできていれば(損切りでも)問題ない(仕方ない)ですし、損切りポイントが本来より近すぎた(もしくは遠すぎた)ということがなければこれもまた問題ないと考えます。
明らかに検証では仕掛けなかったといえるような展開で仕掛けていたり、損切り箇所がおかしかった場合反省と修正が必要になってきます。
- なぜそこでエントリー(イグジット)したか?
- 本来ならどうすべきだったか?
- 今回と同様のミスを防ぐために今後どうすれば良いか?
この繰り返しによってスキルは向上していく…と考えます。
負の感情を反復して受けると、トラウマになって仕掛けられなくなる
損切りは失敗=過ちという解釈でトレードを行っていると、繰り返される損切りに対して一種の恐怖感やトラウマに相当する状態に陥ります。
恐怖感を覚えるようになると、絶好の仕掛けパターンが目前にあるにも関わらず過去の偶然失敗した例が頭によぎって、失敗することを恐れトレードを仕掛けられなくなります。
そして絶好の仕掛けを逃したあとに仕掛けて失敗し、そしてより恐怖感を深めていく……という負の連鎖に陥りかねません。
チャートは所詮「為替レート」を示しているにすぎない
EURUSDの4時間足チャート。過去はユーロ高だが、直近になるにつれドル高となっていることが確認できる。
この内容はマーク・ダグラス著のゾーンに詳細に解説されていますが、ローソク足チャートは現在と過去の為替レートを示しているにすぎず、情報でしかありません。
それが、ローソク足の意味を覚えてトレードを行うようになると、買っているときに陰線が現れると苛立ち、売っているときに陽線が出ると苛立ち……とただの情報に対して怒りや不満といった負の感情を覚えるようになります。
ローソク足の意味、陽線・陰線の意味を知らない時はなんとも思わなかった「ただの情報」に対して、トレードを始めた途端にローソク足の値動きに翻弄され、歓喜し、裏切られたと感じたりしているわけです。
まとめ
トレードに感情を挟むと…
- 無意識のうちに自分を破滅へ導く行動をとってしまう恐れがある
- 失敗から逃げる癖がつき、成長を妨げる恐れがある
- 過去の失敗がトラウマになり、失敗を避けようとして絶好のチャンスを逃すようになる
以上の内容から、(普通の)人間はトレードを行うにはあまりにも不利な精神構造をしており、感情を捨てずにトレードを行うと失敗する(資産を失う)可能性が高いということが伺えます。
もっとざっくばらんに書くと、
ということです。
ただ、最初にも記述した通り、トレードに感情が不要なのはトレードの目的が「資産を増やすこと」であればの話であることに注意いただきたいと思います。
トレードに興奮や感動を求めている場合はその限りではないということと、ブルックスさんの言葉を最後に記して本記事を終わりたいと思います。
自分にとってトレードとは、趣味なのか仕事なのかをまず決めよう。もし趣味ならば、他を探したほうが良い。
これはお金がかかりすぎるうえに危険なほど依存症がある。優れたトレーダーもトレード依存症と似ているが、本当のトレード依存症者は、そのほとんどがいずれ破産するか、破産する高い可能性を有している。アル・ブルックス著 井田京子 訳、「プライスアクショントレード入門」(Pan Rolling)トレードの指針より、pp.555-556
つづき
「じゃあなんでただの情報に感情が生じてしまうの?」という話について、お金が絡んでいること以外の要因について次の記事にて紹介します。
参考文献
当記事はマーク・ダグラス著「ゾーン」を始め、心理学・脳科学の表面的なところをさらって凝縮しているような内容となっています。
相場心理学の内容に関しては、「ゾーン」を読めばこの記事の100倍くらい濃い内容が記述されています(様々な切り口で解説されています)ので、興味をもたれた方は一度手にとってお確かめください。
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